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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1542号 判決 1961年7月12日

控訴人 淀橋税務署長

訴訟代理人 田中勝次郎 外五名

被控訴人 日本勧業保全株式会社 破産管財人 関口保二 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、控訴代理人において新たに乙第一六号証の一ないし四、第一七および第一八号証の各一、二を提出し、被控訴代理人において右乙号証の成立はすべて認めると述べたほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

一、当事者間に争いのない事実

日本勧業保全株式会社(以下破産会社という)は、昭和二七年一〇月一七日被控訴人ら主張の事項を目的として設立されたものであるが、昭和二九年三月一〇日東京地方裁判所において破産の宣告を受け被控訴人らがその破産管財人に選任された。

控訴人は、被控訴人ら主張のとおり、破産会社に対し、同会社が昭和二八年八月から同年一二月までに債権者に支払つた金員につき、昭和二九年二月四日金二四、六六六、三〇六円の源泉徴収所得税および金二、四一一、二五〇円の源泉徴収加算税を、同年二月一六日金一、七三四、二五〇円の源泉徴収加算税を、同年三月一八日金一、五七六、五〇〇円の源泉徴収加算税を、同年四月二〇日金四四七、五〇〇円の源泉徴収加算税をそれぞれ納付すべき旨の賦課決定をし、右各決定はその日付の頃破産会社に通知された。

昭和二九年二月二八日破産会社が右の同年二月四日付の賦課決定に対し控訴人に再調査の請求をしたところ、同年三月三日控訴人は右請求を棄却する旨の決定をし、同決定は同月四日破産会社に通知された。そこで被控訴人らは同月二六日右決定に対し東京国税局長に審査の請求をしたが、同国税局長はその請求の日から三カ月を経過しても何らの決定をもしていない。

以上の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、本案前の主張について

控訴人が昭和二九年二月一六日付でした昭和二八年一〇月分の源泉徴収加算税の賦課決定に対して再調査の請求がなされていないこと、および控訴人が昭和二九年三月一八日付でした昭和二八年一一月分の源泉徴収加算税の賦課決定ならびに昭和二九年四月二〇日付でした昭和二八年一二月分の源泉徴収加算税の賦課決定については再調査の請求も審査の請求もしていないことは、いずれも被控訴人らの認めるところである。しかしながら右賦課決定は控訴人が昭和二九年二月四日付でした昭和二八年一〇月、一一月および一二月分の源泉徴収所得税に対するものであるから、右各加算税の本税たる源泉徴収所得税の賦課決定に対して適法に再調査の請求および審査の請求がなされている本件においては、右各加算税の賦課決定に対し再調査の請求および審査の請求を経ないで取消の訴を提起する正当な事由があるというべきである。したがつて、右各賦課決定の取消を求める訴はいずれも適法であるから、控訴人の本案前の主張は理由がない。

三、本件契約はいわゆる匿名組合契約等に当るか否かについて

控訴人は破産会社がそのいわゆる出資者に支払つた金員は所得税法にいう匿名組合契約またはこれに準ずる契約に基づく利益の分配に当ると主張し、被控訴人らは右破産会社が出資者との間に締結した消費貸借契約に基づく利息であると主張するので検討するに当裁判所は、破産会社が出資者に支払つた金員は、所得税法上の匿名組合契約またはこれに準ずる契約に基づく利益の分配に当るものではないと判断した。その理由はこの点に関する原判決記載の理由と同一であるから、右記載をここに引用する。

当審において新たに提出された乙第一六号証の一ないし四、同第一七号証および第一八号証の各一、二によつても、右に引用した原判決の事実認定及び判断をくつがえすことはできない。

破産会社と出資者との契約における当事者の意思を原判決が認めるように解釈することは法律の禁止する事項を目的とすることになるおそれは多い。しかし当事者の意思解釈はそのまゝ合理的に解釈すべきであつて、これを法律違反にならないように解釈する必要がある訳のものではない。法律違反の効果は別にその責任を問うべきである。原判決がした意思解釈で法律違反の効果が出るからと言つてそのために不合理とは言えない。

四、破産会社と出資者との本件契約が所得税法上の匿名組合契約等に当ることを前提として控訴人がした昭和二九年二月四日付源泉徴収所得税ならびに同加算税、同年二月一六日付、同年三月一八日付、同年四月二〇日付各源泉徴収加算税をそれぞれ徴収する旨の各決定および同年三月三日付破産会社の再調査の請求を棄却した決定はいずれも違法であつて取消を免れない。よつて、右と同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克巳 菊地庚子三 吉田良正)

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